腸内細菌 大事にして健康長寿

腸内細菌 大事にして健康長寿 心身に多彩な働き 食で守り増やす
ヒトの細胞は37兆個といわれている。

しかし、それを超える100兆個もの細菌が、腸内にすんでいる。
腸内細菌は、様々な物質を作り出し、ヒトが健康で豊かに生きる「ウェルビーイング」を支えている。

大腸は腸内細菌にとって絶好の居場所
――なぜ、たくさんの細菌が腸内にいるのか。
細菌には酸素を好む「好気性細菌」と、酸素をいやがる「嫌気性細菌」の2種類がある。
嫌気性細菌は酸素がない動物の体の中に居場所をみつけた。
口から肛門につながるヒトの消化管では、胃を過ぎて小腸から大腸に向かうにつれて酸素濃度が低下し、大腸ではほぼ無酸素となる。
しかも、大腸の上皮組織は体内の酸素が腸に出てこないように防いでいる。
腸内は嫌いな酸素がなくて、自然とエサがやってくる、腸内細菌にとって絶好の居場所なのだ。

腸内細菌は栄養素、神経伝達物質アミノ酸もつくる
――腸内細菌はどんな役割を果たしているのか。
もう無数の働きをしている。
人間に必要なビタミンなどの栄養素をつくったり、腸を動かしたり守ったりする酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸をつくったりしている。
「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンなどの神経伝達物質もつくる。
免疫細胞に指令を出し、有害なウイルスなどを撃退したり、逆に攻撃を抑えたりもする。

――どうすれば、腸内細菌の状態を良くできるか。
ヒトにとって良い菌を育てるためには、食事に気を配ることが大切だ。
それが良好な腸内フローラを保つことにつながる。
わかってきたのは、長寿の人の腸内には酪酸という弱酸の物質をつくる酪酸産生菌が多くいることだ。
長寿の方に共通しているのは、豆類や野菜、魚介類中心の食生活だということ。
良い菌のエサとなるのは、水溶性食物繊維やオリゴ糖だ。
こうしたものが豊富に含まれている食品を食べ、逆に肉類など体に悪い影響を与える菌が好む食品を適量以上にとらないことが大切だ。

腸内フローラを育てる栄養素 腸内細菌とより良くつき合い、健康で豊かな生活を
――腸内環境を良くすることが、ウェルビーイングにつながるということか。
その通り。
健康で精神的にも豊かな生活をおくるには、腸内細菌とより良くつき合うべきだ。
糖尿病などの生活習慣病や肥満の解消にも腸内細菌が影響する。
腸内環境が整い、エネルギー代謝がうまくいけば内臓脂肪は減る。
メタボリックシンドローム動脈硬化が避けられる。
認知機能にかかわる脳の萎縮にも影響する。
最近の研究で、ある種のビフィズス菌をとることにより、認知症予備軍といわれる「軽度認知障害」の方の脳の萎縮が抑制されたという結果が出ている。
また、うつ気味の人には、下痢や便秘などでおなかの調子が悪い人も少なくない。

脳に影響を与え、おなかの調子を整えるビフィズス菌は、アフリカの人たちには少なく、日本人には多い。
日本人としての財産なので、大切にしないといけない。
潰瘍性大腸炎でも他人の腸内細菌を移植する治療法が研究され、成果を上げている。
精神医学でも腸内細菌の活用が進められようとしている。
疲労物質の乳酸を食べ、エネルギー物質のプロピオン酸をつくる「アスリート菌」なども見つかっている。
パプアニューギニアのある部族からは、サツマイモを食べると筋肉など体組織のもとになるアミノ酸を作る腸内細菌も見つかっている。

ヒトは腸内細菌に操られている?
――腸内細菌には様々な働きがあるということか?
たしかに、考えようによっては、腸内細菌がヒトを操っているのかもしれない。
母乳に含まれるオリゴ糖は、ヒトが分解・吸収できないから、赤ちゃんにあげているというより、腸内細菌にあげているということになる。
ヒトが口にした物を様々な物質に変換する腸内細菌の特性を知って、上手につき合うことが大切だ。
ぜひ、食事に気を配り、健康長寿を目指したい。

3世代の腸内細菌 若い世代ほど失われる多様性
ある調査で、同一家系3世代で、腸内フローラの多様性を評価したところ、祖父母(第1世代)、父母(第2世代)、子ども(第3世代)と徐々に腸内細菌の多様性が失われていることがわかった。
一度腸内から消えてしまった細菌の中には、カムバックできないものが出てくることも考えられる。
日本人が古くから受け継いできた有益な細菌を次世代に引き継ぐためにも、食物繊維を十分にとるなど食事を大切にしたい。
京都府立医科大学大学院・内藤裕二教授)

参考・引用・一部改変
朝日新聞・朝刊 2022.9.24