のろのろと蝸虫のやうであれ

 

自分はいまこそ言はう

 

なんであんなにいそぐのだらう

どこまでゆかうとするのだろう

どこで此の道がつきるのだらう

此の生の一本みちがどこかでつきたら

人間はそこでどうなるのだらう

おお此の道はどこまでも人間とともにつきないのではないか

谿間をながれる泉のやうに

自分はいまこそ言はう

人生はのろさにあれ

のろのろと蝸虫(ででむし)のやうであれ

そしてやすまず

一生に二どと通らぬみちなのだからつつしんで

自分は行かうと思ふと

 

山村暮鳥(1884~1924)「風は草木にさざやいた」より