上腸間膜動脈症候群
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?page=2&id=20649
(執筆者 東京医科大学茨城医療センター 鈴木修司先生 消化器外科主任教授)
本症は,十二指腸水平脚が前方から上腸間膜動脈,後方から大動脈や脊椎により挟まれて,急性,間欠性,慢性の狭窄・閉塞を起こす疾患である。本症の発生機序は,大動脈-上腸間膜動脈間隙の狭小化(2~8mm),高位十二指腸,短Treitz靱帯,上腸間膜動脈の高位分岐などの解剖学的異常に加え,上腸間膜動脈周囲の脂肪織の減少,急激な体重減少(低栄養,高度侵襲による異化亢進,神経性食欲不振症など),長期臥床(背側への十二指腸圧迫),腹側への十二指腸偏移,腸間膜の下方への牽引(手術操作や癒着)などの誘因が重なって発症するとされている。
発生頻度は,一般人口の0.013~0.3%と推定され,10~39歳の比較的若年者に多く,女性に多い傾向とされている。
主症状は,食事摂取により増強する上腹部痛,腹部膨満感,悪心,胆汁性嘔吐などを認める。多くの場合慢性間欠的で,急性発症は稀である。前記症状は側臥位および腹臥位,胸膝位で軽快し,仰臥位で増悪する。慢性型では、るい痩や栄養障害が進行することがある。
診断は,症状が非特異的であることから,除外診断が必要となる。
腹部立位単純X線検査では,十二指腸水平脚の閉塞による胃十二指腸の拡張のため,double bubble signを認める。
上部消化管造影検査では,十二指腸第3部の直線的断裂像,胃から十二指腸近位側の著明な拡張,造影剤のうっ滞,造影剤のto and fro像が特徴的とされ,造影剤は体位変換で流れることが多い。
腹部超音波検査や腹部CT検査では,十二指腸第2部までの著明な拡張および狭窄部位,上腸間膜動脈の分岐角の鋭角化(20°以下),上腸間膜動脈と大動脈間の距離の狭小化(2~8mm)を認める。
栄養療法の発展による保存的治療の有効率が改善してきているため,本症治療の第一選択は保存的治療である。保存的治療抵抗例や再燃を繰り返す場合,早期社会復帰を強く希望する場合には手術が考慮される。
保存的治療;
急性期には絶飲食,胃管留置による胃・十二指腸の減圧,脱水・電解質異常の補正を行う。慢性期には食事の少量分割摂食や食後に左側臥位や腹臥位,胸膝位をとるよう指導する(上腸間膜動脈分岐角を広げ食物の通過を促す)。経口摂取が不十分な場合は中心静脈栄養や経腸栄養を行う。これらは,上腸間膜動脈周囲の脂肪織を増やし,上腸間膜動脈分岐角や距離を広げるために行う。
手術療法;
保存的治療抵抗例や再燃を繰り返す場合,早期社会復帰を強く希望する場合には手術が考慮される。手術術式としては,①十二指腸水平脚の上腸間膜動脈からの圧迫を解除する方法(strong手術:Treitz靱帯の分割),十二指腸水平脚授動術,十二指腸前方転位術,②バイパス手術(十二指腸空腸吻合術),が挙げられる。しかし,現在では良好な成績から十二指腸空腸吻合術が標準術式となっており,腹腔鏡下手術が増加している。
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